認知症などにより、判断能力を欠く者が相続人になることがあります。
その場合、後見人が相続人の代理として意思表示する決まりになっています。
今回は、相続における後見人の役割について考えていきます。
認知症の高齢者が相続人になるケースは増加している
認知症の高齢者の数は、近年急速に増加しています。
それに伴い、認知症の高齢者が相続人となり、自らの相続について、単純承認や限定承認、相続放棄の意思表示をしたり、遺産分割協議に当事者として参加する場面も増えています。
もちろん、認知症の高齢者だけでなく、知的障害の方や重度の精神障害の方も、その親が亡くなったりして、相続人となる場合もあります。
いずれの場合にも、それらの方々が、相続人として適切な行動ができるとは期待できません。
不公平な遺産分割になってしまう恐れがある!
例えば、被相続人がX、相続人がA、B、Cの3人で、Xの遺産が3,000万円とし、AとBが健常者で、Cが認知症の高齢者だとして遺産分割協議を行ったとします。
この場合、Aの遺産の取り分が1,500万円、Bの取り分が1,500万円、Cの取り分が0円という協議内容でも、CがAとBに騙されて同意してしまう可能性は十分にあります。
そもそも相続が成立しないかも
また、例えば、上記の例でCが完全な植物人間状態で、字も読めないし、言葉も話せない状態であったとします。
被相続人Xが遺言を残さなかった場合、遺産の分割方法は、原則として、相続人間の遺産分割協議により決定します。
この協議は相続人全員の同意がないと成立しません。
Cが完全な植物人間状態であれば、Cの分割協議の同意は得られるはずがありません。
すると、他の相続人たるAとBはいつまでたっても遺産の分割ができないので、今度は、AとBの遺産を利用する権利が制限されるために、望ましくはありません。
物事の判断能力を欠く者の代わりに後見人を選任する
その場合、後見人を選任して、本人の代わりに意思表示をする決まりになっています。
後見人が、代理人として行った意思表示や合意は、本人の意思と同じだけの効力を持ちます。
ですから、例えば、後見人が相続放棄の意思表示をした場合、本人が相続放棄をしたことになります。
後見人の選任方法
後見人は、親族などの請求により、家庭裁判所が後見開始の審判により定めます。
なお、後見人は家庭裁判所が職権で定めますから、本人の家族等が勝手に後見人になることはできません。
後見人の仕事
後見人が行うのは、相続に対する意思表示や遺産分割協議への参加などの財産管理行為に限られます。
認知症の介護など日常生活に関する行為については、後見人の仕事には含まれません。
まとめ
今回は、相続における後見人の役割について考えていきました。
後見人とは、何らかの理由で相続人が意思表示できない場合に代理で意思表示をしてくれる代理人のことです。
後見人を誰にするかは、家庭裁判所の審判によって定められるので、第三者の立場から意思表示をしてくれます。